Theoryはじめに — 痛みはどこで感じるか
痛みはどこで感じるのかといえば、結局は「脳」です。脳に痛みが伝わらなければ、痛くないわけです。
痛くなければ、痛みによるストレスもなくなるので、体が自然とほぐれ、患部の血流も良くなり、回復力も増します。では、それをやるにはどうすれば良いのか? ものすごく簡単なんです。実に簡単です。しかも医学的根拠もあり、西洋医学でも、東洋医学でも、医学を志す人ならみんな知っている理論です。
実際、「痛みを楽にするだけなら、もうこれだけでもいいんじゃないの!?」と思う人もいるでしょう。でも、なぜか世間では、この理論を元にした治療があまり行われていないのが現状です。全然ないわけではなく、少しはあります。しかし、その時だけの、ほんの短時間の治療で終わるので、効果もその時に終わるというのが現実です。
私は、鍼灸師として鍼灸院を開業して28年経ちますが、経験上、この方法だけでも症状の改善する方は、かなり多いはずだと思っています。私は、自分自身に鍼も打ちますが、これから紹介する方法の開発者兼実践者でもあります。
ではここで、理論名を発表します。その理論を、「ゲートコントロール理論」と呼びます。超有名な理論です。
患部の痛みは、まず、患部から、背骨の中にある脊髄に伝わります。そして、脊髄から、脳に伝わり、痛みを理解します。痛いところを、「痛い痛いの飛んで行け!!」と、言っても、言わなくても、患部をさすったり、圧したりすると、痛みが楽になる経験があるはずです。これこそが、紛れもなく、ゲートコントロール理論によるものだったのです。
※ 経過・体感には個人差があります。セルフケアは補助的な方法であり、効果を保証するものではありません。
Figureゲートコントロール理論図
下の院長作図を補う、動く模式図(簡略版)です。図の上の 2つのボタン を押すと、流れが切り替わります。
- 患部から痛みの信号が脊髄へ届く
- 押さえる・さする・てい鍼で、触覚・圧の神経(Aβ)が働く
- 脊髄のゲート(門)が閉じ、T細胞から先が遮断され、脳への痛みが弱まる(個人差あり)
簡略模式図 — 茶色=痛みの経路、青=押さえる・さする・てい鍼。上の2ボタンで切替。
このとき:痛みの信号がゲート(門)を通って、脳に届いています。
このとき:押さえる・さする・てい鍼で Aβ が I細胞を働かせます。痛み信号はT細胞まで届きますが、ゲートが閉じて脳へは伝わりにくくなります(個人差あり)。
※ 「T細胞」は免疫のT細胞ではなく、痛み信号を運ぶ伝達ニューロンの呼び方です。経過・体感には個人差があります。
Basics「ゲート」とは何か
「痛み」は、主に、C線維・Aδ線維という、細い神経を伝わってゲートから脊髄に入ります。では、「ゲート」とは何かというと、文字通り「門」のことです。痛み刺激の入る門です。
このゲートコントロール理論図を見ても「なんだこれ?」と思うほどややこしいので、話をわかりやすくするために、次の章では例え話をさせていただきます。
Story例え話で理解する
※ 以下は、ゲートコントロール理論の要点を伝える例え話です。王様・門番などは比喩であり、厳密な解剖図そのものではありません。現代の疼痛科学では、下行性抑制や中枢での処理など、ほかの要因も知られています。
配役
- ① 脳みそ — 王様
- ② 脊髄 — 門から王城まで続くメインストリート
- ③ 介在抑制ニューロン「I」 — 門番
- ④ 伝達ニューロン(T細胞) — 兵士(門の開閉・馬車引きを一人で担当)。免疫のT細胞ではありません。ゲートコントロール理論で、痛み信号を脊髄から脳へ運ぶ細胞を指す呼び方です。
- ⑤ ゲート(新説によると②と④の間付近)— 城門
- ⑥ 痛み(C・Aδ神経)— 悪魔の使い
- ⑦ 触覚・振動・圧力(Aβ神経)— お目付け役(門番と兵士を監視する人)
- ⑧ 圧力をかけるもの(セルフケア)— ムチを使う謎の人物
ストーリー
ある日、悪魔の使いが門にやって来ました。門番は悪魔の使いが来ると、すぐに眠らされてしまいます。すると悪魔の使いは、勝手に門を開けて中に入り、王の元に連れて行ってくれる馬車のところまで行きます。馬車を引く兵士は、門番が入れてくれたのだろうと思い、そのまま悪魔の使いを馬車に乗せて、王城に向け出発し、メインストリートを猛スピードでかっ飛ばし、王城に連れて行ってしまいます。
そこで悪魔の使いは、王様に謁見しますが、あろうことか王様に悪さをし、痛めつけてしまうのです。そうして「王」は、「この極悪・悪魔め!!」と痛みを知ることになるのです。
そこで、王は「門番が悪魔の使いに眠らされることが問題なんだ」、そして「馬車を引く兵士も問題だ!」、と怒り狂い、門番と兵士に「御目付け役」をつけることにしました。
ただ、実は、このお目付け役が「くせ者」なんですね。かなりの怠け者で、尻を叩かないと、働かないのです。悪魔の使いは、お目付役の目を盗んでは、勝手に侵入して王様に悪さをしますが、甲斐あって、お目付役の監視が厳しい時だけは、悪魔の使いが侵入できなくなりました。
しかし、お目付役の怠け癖のせいで、以前ほどではないものの、やはり悪魔の使いはほぼ思い通りに城に入り、王様を痛めつけるのです。
そこで、王様は深く悩み、「この目付けめを、常に働かせれば、悪魔の使いは侵入しないだろう(痛くないだろう)」と思いました。そこで、そのお目付役にムチを打つ役人として、王の手となり足となる、謎の人物達を雇い入れることにしました。
なぜ、謎の人物達? かといえば、この世界の中ではお目にかかることのできない外部の人達(体外からのアプローチになるので体内からは見えない存在なので……)だからです。
そう、この謎の人物が振るうムチ(お目付役、つまりAβ神経を働かせるもの)こそが、セルフケアそのものなのです。
お目付役がちゃんと仕事をすると、門番が目を覚まし、門を固く閉ざすと同時に、馬車引の兵士にも「動くな」と命令が下るので、悪魔の使いが王様の元に行くことができなくなります。よって、王様は痛い思いをせずに済むという訳なのです!
※ 比喩上の「怠け者」「ムチ」は、圧刺激を続けるとゲートが閉じやすい、というイメージです。体感・経過には個人差があります。
Next実践編へ — ムチ=セルフケアの具体化
理論の続きは、実践編で。複数のセルフケアの方法(謎の人物達の振るうムチ=怠け者のAβ神経を常に働かせる方法)を紹介します。
この方法は、自宅にある物でできるであろうと思いますので、基本的に費用はかかりません。院内でてい鍼(GCT)を学びたい方は、完全無痛・運動てい鍼(GCT) のページもご覧ください。
ゲートコントロール理論(実践編)へ
Medical医学的まとめ
上の話を簡単に医学的にお話しすると、以下のようになります。
Aβ神経線維という太い神経に刺激を加えると、脊髄後角の第Ⅱ層にある「抑制介在ニューロンすなわち膠様質細胞」が興奮して、脳に痛み刺激を伝えるT細胞の活動を抑制します(痛み刺激が通るゲートの閉鎖)。その結果、末梢から伝わる痛みはブロックされるわけです。
FAQよくある質問
- ゲートコントロール理論とは何ですか?
- 痛み刺激が脊髄の「ゲート(門)」を通って脳に届く仕組みを説明する理論です。触覚・圧力など太いAβ神経線維の刺激が、痛み信号の通り道を閉じやすくする、と整理されます。患部をさすったり押したりすると一時的に楽になる経験と結びつく考え方です。
- 患部をさすったり押したりすると痛みが楽になるのはなぜですか?
- さすり・押さえはAβ神経線維に刺激を加え、脊髄後角の抑制介在ニューロンが働きやすくなる、と説明されます。その結果、痛み刺激が脳に届きにくくなるイメージです。手を離すと効果が短くなることもあり、続ける方法は実践編で解説しています。体感には個人差があります。
- 例え話の「王様と門番」と図は、厳密な解剖そのものですか?
- いいえ。王様・門番・悪魔の使いなどは、ゲートコントロール理論の要点を伝えるための比喩です。現代の疼痛科学では、下行性抑制や中枢での処理など、ほかの要因も知られています。模式図も理解の補助としてご覧ください。
- 理論編だけ読んで、すぐ実践に移れますか?
- 理論編で全体像を押さえたうえで、実践編(さすり・押さえ・固定式てい鍼)に進む流れがおすすめです。実践編では、Aβ神経を長時間働かせる具体的方法と注意点を解説しています。
- なぜこの理論に基づく治療は、あまり行われていないのですか?
- 理論自体は医学の基礎として広く知られていますが、手でさすったり押したりする方法は手を離すと効果が短くなりやすい、という現実があります。当院の高野鍼灸セルフケアは、固定式てい鍼などで圧刺激を続けられる点が特徴です。経過には個人差があります。
執筆・監修: 高野義道
はり師(第102346号)・きゅう師(第102332号)国家資格 / 学士(鍼灸学) / 開業28年
最終更新: 2026-06-01